令和2年の年金制度改正の振り返りと今後の展望について
令和6年は年金制度改革の材料となる財政検証が行われる年です。
公的年金制度は長期的な制度であるため、社会・経済の変化を踏まえ、適切な年金数理に基づいて、長期的な年金財政の健全性を定期的に検証することは、公的年金の財政運営にとって不可欠なものです。
このため、厚生年金保険法及び国民年金法の規定により、少なくとも5年ごとに、国民年金及び厚生年金の財政の現況及び見通しの作成、いわゆる財政検証を実施しています。
令和6年に財政検証が行われ、令和7年以降の年金法改正の材料となります。
高齢化・少子化が進む中、物価も上がってきております。
この様な状況の中、どのような年金改定の内容になるのか、現在注目されている106万の壁についての行方も気になるところです。
さて、令和6年より前の財政検証としては令和元年に行われました。
そして、令和2年5月に年金制度改正法が成立されております。
改正内容は複数あり、令和2年5月以降、各内容については順次施行(実際にスタート)となります。
※法の成立とは、国会で法律が可決された時であり、施行とは法律の効力が一般的、現実的に発動し、作用することになることです。
令和2年の改正内容がどのようなものであったかを見ていきたいと思います。
令和2年改正とは?
改正趣旨
より多くの人がより長く多様な形で働く社会へと変化する中で、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るため、短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大、在職中の年金受給の在り方の見直し、受給開始時期の選択肢の拡大、確定拠出年金の加入可能要件の見直し等の措置を講ずる。
改正の概要
被用者保険の適用拡大
- 短時間労働者を被用者保険の適用対象とすべき事業所の企業規模要件について、段階的に引き下げる。(厚生年金保険被保険者500人超→100人超→50人超)
将来の年金受給額を確保するために、今まで厚生年金保険・健康保険に加入できなかった短時間労働者も加入対象となります。
平成28年10月から厚生年金保険被保険者500人超の会社で働く短時間労働者が該当となりましたが、その後、令和4年10月から100人超、令和6年10月から50人超と企業規模要件が引き下げとなります。 - 5人以上の個人事業所に係る適用業種に、弁護士、税理士等の資格を有する者が行う法律又は会計に係る業務を行う事業を追加する。
こちらにより、いわゆる士業で5人以上の事務所は、厚生年金保険・健康保険が強制適用となりました。(施行:令和4年10月) - 厚生年金・健康保険の適用対象である国・自治体等で勤務する短時間労働者に対して、公務員共済の短期給付を適用する。
国・自治体等で勤務する短時間労働者については、厚生年金・健康保険の適用を受けておりましたが、健康保険については常勤職員と同じ共済組合員として短期給付(公務員の健康保険)を適用することになりました。(施行:令和4年10月)
在職中の年金受給の在り方の見直し
- 高齢期の就労継続を早期に年金額に反映するため、在職中の老齢厚生年金受給者(65歳以上)の年金額を毎年定時に改定することとする。
改正前の被保険者である老齢厚生年金の受給者の年金額については、退職時または70歳になった時にそれまでの被保険者期間が反映され、老齢厚生年金額が改定とされておりましたが、改正後は毎年9月1日において、被保険者である老齢厚生年金の受給者の年金額に過去1年分の被保険者期間(前年9月から当年8月まで分)を算入し、10月から老齢厚生年金額を改定することとなります。働く方の高齢化に伴い、働いた期間が年金額に早期に反映される仕組みとなりました。(施行:令和4年4月) - 60歳から64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度について、支給停止とならない範囲を拡大する(支給停止が開始される賃金と年金の合計額の基準を、現行の28万円から47万円(令和2年度額)に引き上げる。)。
特別支給の老齢厚生年金を受給されている方の年金支給停止額が65歳以降の方と統一されることにより、年齢による年金支給停止額の不均衡が解消されました。(施行:令和4年4月)
受給開始時期の選択肢の拡大
- 現在60歳から70歳の間となっている年金の受給開始時期の選択肢を、60歳から75歳の間に拡大する。
働き方の多様化、定年年齢の高齢化に伴い、年金を繰り下げる年齢の選択肢が拡大されました。(施行:令和4年4月)
確定拠出年金の加入可能要件の見直し等
- 確定拠出年金の加入可能年齢を引き上げる(※)とともに、受給開始時期等の選択肢を拡大する。
※ 企業型DC:厚生年金被保険者のうち65歳未満→70歳未満 個人型DC(iDeCo):公的年金の被保険者のうち60歳未満→65歳未満
定年年齢の高齢化に伴い、確定拠出年金の加入可能年齢が引き上げられました。(施行:令和4年5月) - 確定拠出年金における中小企業向け制度の対象範囲の拡大(100人以下→300人以下)、企業型DC加入者のiDeCo加入の要件緩和など、制度面・手続面の改善を図る。(施行:令和2年10月、令和4年10月)
その他
- 国民年金手帳から基礎年金番号通知書への切替え
マイナンバーが基礎年金番号と紐づいたことで、年金手帳の必要が無くなりましたので、年金手帳は廃止となりました。(施行:令和4年4月) - 未婚のひとり親等を寡婦と同様に国民年金保険料の申請全額免除基準等に追加
税制改正でひとり親控除が新設されたことに伴い、ひとり親についても国民年金保険料が免除となりました。(施行:令和3年4月) - 短期滞在の外国人に対する脱退一時金の支給上限年数を3年から5年に引上げ 外国人労働者が増加する中、年金保険料の掛け捨てを緩和する措置が行われました。(施行:令和3年4月)
- 年金生活者支援給付金制度における所得・世帯情報の照会の対象者の見直し(施行:令和3年8月)
- 児童扶養手当と障害年金の併給調整の見直し
ひとり親の障害年金受給者は、改正前制度では、障害年金額が児童扶養手当額を上回ると児童扶養手当を受給できません。このため、児童扶養手当と障害年金の併給調整の方法を見直すことにより、ひとり親の障害年金受給者が児童扶養手当を受給できるようになりました。具体的には、児童扶養手当の額と障害年金の子の加算部分の額との差額部分の児童扶養手当を受給することができるようになりました。(施行:令和3年3月)
以上が令和2年改正の内容となります。
令和6年の財政検証を基に令和7年以降に改正される内容について、どのようなものになるかイメージされるのもよろしいかと思います。
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