脳・心臓疾患の労災認定基準とは?認定要件など詳細に解説します!
労災保険の脳・心臓疾患の認定基準についてお話しさせていただきます。
基本的な考え方から細かい認定要件まで詳細に解説します。
ぜひお読みください。
脳・心臓疾患の認定基準
脳・心臓疾患の基本的な考え方
脳・心臓疾患は、加齢、生活習慣病等、日常生活による要因によって徐々に進行し、憎悪するといった自然経過をたどり、突然発症するものになりますが、業務による明らかな過重負荷が加わることによって血管病変が著しく憎悪し、脳・心臓疾患を発症したと認められるものについては、労災補償の対象となります。
脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、発症に近接した時期における負荷のほか、長期間にわたる疲労の蓄積も考慮することとされました。
また、業務の過重性の評価にあたっては、労働時間、勤務形態、作業環境、精神的緊張の状態等を具体的かつ客観的に把握、検討し、総合的に判断することになります。
対象疾病
脳血管疾患 | 虚血性心疾患等 |
・脳内出血 ・くも膜下出血 ・脳梗塞 ・高血圧性脳症 | ・心筋梗塞 ・狭心症 ・心停止(心臓性突然死を含む) ・重篤な心不全 ・大動脈解離 |
認定基準
以下のいずれかの「業務による明らかな過重負荷」を受けたことによって発症した脳・心臓疾患は、業務上の疾病として取り扱われます。
- 長期間の過重業務
発症前の長期間(概ね6ヵ月)にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと
- 短期間の過重業務
発症に近接した時期(発症前概ね1週間)において、特に過重な業務に就労したこと
- 異常な出来事
発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと
用語の定義
・業務による明らかな
発症の有力な原因が仕事によるものであることがはっきりしていること。
・過重負荷
医学的経験則に照らして、脳・心臓疾患の「発症の基礎となる血管病変等」を、その「自然経過」を超えて「著しく憎悪」させ得ることが客観的に認められる負荷のこと。
・発症の基礎となる血管病変等
もともと本人がもっている動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤、心筋変性等の基礎的病態のこと。
・自然経過
加齢、生活習慣、生活環境等の日常生活の諸々の要因や遺伝等の個人に内在する要因により、血管病変等が徐々に悪化していくこと。
・著しく憎悪
血管病変等の悪化が著しいこと。
※発症の要因が、業務による明らかな過重負荷であれば労災認定となりますが、業務以外による過重負荷、あるいは発症の基礎となる血管病変等の自然経過については労災とはなりません。
認定要件1 ~「長期間の過重業務」~
評価期間
長期間の過重業務とは、発症前の概ね6ヵ月間
疲労の蓄積
恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には、疲労の蓄積が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく憎悪させ、その結果、脳・心臓疾患を発症させることがあるため、発症前の一定期間の就労実態を考察し、発症時の疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から判断します。
特に過重な業務
日常業務に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいいます。
過重負荷の有無の判断
著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるか否かは、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同種労働者にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められる業務であるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断します。
業務の過重性の具体的な評価をするには、疲労の蓄積の観点から、労働時間のほか、労働時間以外の負荷要因について十分検討します。
労働時間の評価
労働時間が長いほど業務の過重性が増しますので、発症日を起点とした1カ月単位の連続した期間について、以下の1~3を踏まえて判断します。
- 発症前6ヵ月間のすべての期間にわたって、1ヵ月あたり概ね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いと評価できる。
- 概ね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できる。
- 発症前1ヵ月あたり概ね100時間又は発症前2ヵ月間ないし6ヵ月間のいずれかの期間にわたって、1ヵ月あたり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる。
労働時間と労働時間以外の負荷要因の総合的な評価
労働時間以外の負荷要因において、一定の負荷が認められる場合には、労働時間の状況をも総合的に考慮し、業務と発症との関連性が強いといえるかどうかを適切に判断します。
具体的には、上記3.の基準には至らないが、これに近い時間外労働が認められる場合には、特に他の負荷要因の状況を十分に考慮し、そのような時間外労働に加えて、一定の労働時間以外の負荷が認められる場合には、労働時間の状況をも総合的に考慮し、業務と発症との関連性が強いといえるかどうかを適切に判断します。
労働時間以外の負荷要因 | 勤務時間の不規則性 | 拘束時間の長い勤務 |
休日のない連続勤務 | ||
勤務間インターバルが短い勤務 | ||
不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務 | ||
事業場外における移動を伴う業務 | 出張の多い業務 | |
その他事業場外における移動を伴う業務 | ||
心理的負荷を伴う業務 | ||
身体的負荷を伴う業務 | ||
作業環境 ※長期間の過重業務では付加的に評価 | 温度環境 | |
騒音 |
認定要件2 ~「短期間の過重業務」~
評価期間
発症前の概ね1週間
過重負荷の有無の判断
特に過重な業務に就労したと認められるか否かは、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同種労働者にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められる業務であるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断します。
業務の過重性の具体的な評価をするには、労働時間のほか、労働時間以外の負荷要因について十分検討します。
業務と発症との時間的関連性
短期間の過重業務と発症との関連性を時間的にみた場合、業務による過重負荷は、発症に近ければ近いほど影響が強いと考えられるため、業務と発症との時間的関連を考慮して以下のとおり判断します。
- 発症直前から前日までの間の業務が特に過重であるか否か
- 発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められない場合であっても、発症前概ね1週間以内に過重な業務が継続している場合には、業務と発症との関連性があると考えられるので、この間の業務が特に過重であるか否か
業務の過重性の具体的評価
「労働時間」の長さは、業務量の大きさと、過重性の評価の重要な要因となります。評価期間の労働時間は十分に考慮し、発症直前から前日までの間の労働時間数、発症前1週間の労働時間数、休日の確保の状況等の観点から検討し、評価します。以下の場合は、業務と発症との関連性が強いと評価し、判断がされます。
- 発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合
- 発生前概ね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合等
(いずれも手待時間が長いなど、労働密度が低い場合を除きます。)
※労働時間の長さのみで過重負荷の有無を判断できない場合には、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮して判断します。
認定要件3 ~「異常な出来事」~
評価期間
発生直前から前日までの間
異常な出来事とは
◆精神的負荷
極度の緊張、興奮、恐怖、驚愕等の強度の精神的負荷を引き起こす事態があったか。
【例】
・業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した
・事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に携わった
・生命の危険を感じさせるような事故や対人トラブルを体験した
◆身体的負荷
急激で著しい身体的負荷を強いられる事態があったか
【例】
・業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した
・事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に携わった
・著しい身体的負荷を伴う消火作業、人力での除雪作業、身体訓練、走行等を行った
◆作業環境の変化
急激で著しい作業環境の変化があったか
【例】
著しく暑熱な作業環境下で、水分補給が阻害される状態や、著しく寒冷な作業環境下での作業、温度差のある場所への頻回な出入りを行った
過重負荷の有無の判断
異常な出来事と認められるかどうかは、出来事の異常性、突発性の程度、予測の困難性、事故や災害の場合にはその大きさ、被害・加害の程度、緊張、興奮、恐怖、驚愕等の精神的負担の程度、作業強度等の身体的負荷の程度、気温の上昇又は低下等の作業環境の変化の程度等について検討し、これらの出来事による身体的、精神的負荷が著しいと認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断します。
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