精神障害の労災認定基準とは?認定要件など詳細に解説します!
今回は精神障害の労災認定基準についてお話しさせていただきます。
基本的な考え方から細かい認定要件まで詳細に解説します。
ぜひお読みください。
精神障害の労災認定について
精神障害が労災認定されるのは、その発病が仕事による強いストレス(業務による心理的負荷)によるものと判断できる場合に限りますが、仕事によるストレスだけではなく、同時に私生活でのストレス(業務以外の心理的負荷)が強かったり、既往歴やアルコール依存(個体側要因)も関係している場合がありますので、どれが発病の原因なのか、慎重に判断することとなります。
認定基準は?
次の要件をいずれも満たす場合は、業務上の疾病として取り扱われます。
- 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
- 認定基準の対象となる精神障害の発病前概ね6ヵ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
業務による心理的負荷が認められるとは・・
業務による具体的な出来事があり、その出来事とその後の状況が、労働者に強い心理的負荷を与えたことをいいます。
また、心理的負荷の強度は、「本人がその出来事及び出来事に伴う変化等を主観的にどう受け止めたかではなく、同種の労働者が、一般的にどう受け止めるかという観点から検討されなければならない」(厚生労働省 労働基準局の認定基準 平成11.9.14 基発第544号)とされています。
同種の労働者とは、職種、職場における立場や職責、年齢、経験などが類似する人をいいます。
なお、悪化前の概ね6ヵ月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認めることとされます。
認定基準の対象となる精神障害
認定基準の対象となる精神障害は、国際疾病分類第10回改訂版(ICD-10)第5章「精神および行動の障害」に分類される精神障害となります。
業務による強い心理的負荷が認められる
発病前概ね6ヵ月の間に起きた業務による出来事について、「業務による心理的負荷評価表」により「強」と評価される場合に、業務による強い心理的負荷が認められます。
出来事と出来事後を一連のものとして総合評価を行いますが、具体的な評価手順は以下となります。
「特別な出来事」に該当する出来事がある場合
「業務による心理的負荷評価表」の「特別な出来事」に該当する出来事が認められた場合に、心理的負荷の総合評価を「強」とします。
「特別な出来事」に該当する出来事がない場合
以下の手順で心理的負荷の強度を「強」「中」「弱」と評価します。
- 「具体的出来事」への当てはめ
業務による出来事が、「業務による心理的負荷評価表」の「具体的出来事」のどれに当てはまるか、あるいは近いかを判断します。
具体的出来事に応じて、その心理的負荷の強度を「Ⅰ」「Ⅱ」「Ⅲ」で示します。
- 出来事ごとの心理的負荷の総合評価
心理的負担の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例に、事実関係が合致するものがある場合、その強度で判断します。
事実関係が具体例に合致しない場合には、「心理的負荷の総合評価の視点」の欄に示す事項を考慮し、個々の事案ごとに評価します。
- 出来事が複数ある場合の全体評価
複数の出来事が関連して生じた場合には、その全体を一つの出来事として評価します。原則として、最初の出来事を具体的出来事として「業務による心理的負荷評価表」に当てはめ、関連して生じたそれぞれの出来事は、出来事後の状況とみなし、全体の評価をします。
関連しない出来事が複数生じた場合には、出来事の数、それぞれの出来事の内容、時間的な近接の程度を考慮して、全体の評価をします。
(例) 「強」+「中」または「弱」→「強」
「中」+「弱」→「中」
「弱」+「弱」→「弱」
なお、令和5年9月の改正で、「業務による心理的評価表」の見直しがされました。
- 具体的出来事に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(カスタマーハラスメント)が追加されました。
- 具体的出来事に「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」が追加されました。
- 心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」となる具体例が拡充されました。(パワーハラスメントの6類型すべての具体例の明記等)
~長時間労働がある場合の評価方法~
長時間労働に従事したことが精神障害を発病する原因にもなることから、長時間労働を以下の3つの視点から評価します。
- 「特別な出来事」としての「極度の長時間労働」
発病直前の極めて長い労働時間を評価します。
<「強」になる例>
- 発病直前の1ヵ月に概ね160時間以上の時間外労働を行った場合
- 発病直前の3週間に概ね120時間以上の時間外労働を行った場合
- 「出来事」としての長時間労働
発病前の1ヵ月から3ヵ月間の長時間労働を出来事として評価します。
<「強」になる例>
- 発病直前の2ヵ月間連続して1月当たり概ね120時間以上の時間外労働を行った場合
- 発病直前の3ヵ月間連続して1月当たり概ね100時間以上の時間外労働を行った場合
- 他の出来事と関連した長時間労働
出来事が発生した前や後に恒常的な長時間労働(月100時間程度の時間外労働)があった場合、心理的負荷の強度を修正する要素として評価します。
<「強」になる例>
- 転勤して新たな業務に従事し、その後月100時間程度の時間外労働を行った場合
上記の基準に該当しない場合でも、心理的負荷を「強」と判断されることがあります。
◇評価期間の特例◇
発病前概ね6ヵ月の間に起こった出来事について評価しますが、いじめやセクシャルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては、発病の6ヵ月よりも前にそれが始まり、発病まで継続していたときは、それが始まった時点からの心理的負荷を評価します。
- 業務以外の心理的負荷による発病かどうか
「業務以外の心理的負荷評価表」を用いて、心理的負荷の強度を評価します。
心理的負荷の強度が「Ⅲ」に該当する出来事が複数ある場合などは、それが発病の原因になるのか慎重に判断します。
- 個体側要因による発病かどうか
精神障害の既往歴やアルコール依存状況などの個体側要因については、その有無と内容について確認し、個体側要因がある場合には、それが発病の原因であるといえるか、慎重に判断します。
「自殺」の扱い
業務による心理的負荷によって精神障害を発病し、自殺を図った場合は、精神障害によって正常な認識や行為選択能力、自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されいる状態に陥ったもの(故意の欠如)と推定され、原則としてその死亡は労災認定されます。
「発病後の悪化」の扱い
業務以外の心理的負荷により発病し、治療が必要な状態にある精神障害が悪化した場合、悪化する前に業務による心理的負荷があっても、直ちにそれが悪化の原因であるとは判断できません。
ただし、「業務による心理的負荷評価表」の「特別な出来事」に該当する出来事があり、その後概ね6ヵ月以内に精神障害が自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合に限り、「特別な出来事」による心理的負荷が悪化の原因と推認し、悪化した部分については労災補償の対象となります。
「治ゆ」の扱い
健康時の状態に回復した状態だけではなく、症状が安定し、医学上これ以上医療効果が期待できなくなった状態をいいます。
精神障害についても「症状が残存しているが、これ以上医療効果が期待できない」と判断される場合には、「治ゆ」(症状固定)となり、療養(補償)給付や休業(補償)給付は支給されません。
1日8時間の勤務が可能な状態で、「寛解」の診断がされている場合には、「治ゆ」の状態とされます。
治ゆ後に、症状の変化を防止するために投薬を続けている場合には「アフターケア」、一定の障害が残った場合には障害(補償)給付を受けることができます。
「複数の会社等に雇用されている労働者」の扱い
1つの勤務先での心理的負荷を評価しても労災認定できない場合、すべての勤務先の業務による心理的負荷を総合的に判断し、評価して労災認定できるか判断することになります。
オフィスステーションを使用し、手続きを効率化しましょう!
弊事務所では、オフィスステーション(https://www.officestation.jp/)を使用し、手続業務の効率化を行っております。
労災保険に関する申請業務は電子申請が行えませんが、書類についてはオフィスステーションを利用し作成可能です。
手書きで書類を作成しようとすると、多くの時間がかかりますが、電子的に書類を作成すると、時間的メリットがあり、修正もとても簡単ですので、ぜひご検討ください。