上肢障害の労災認定について、詳細に解説します!
今回は上肢障害の労災認定についてご説明させていただきます。
認定の要件や実際にどのようなケースで認定されたかなど、詳細に解説しております。
ぜひお読みください。
上肢障害とは
腕や手を過度に使用すると、首から肩、腕、手、指にかけて炎症を起こしたり、関節や腱に異常をきたしたりすることがありますが、上肢障害とはこれらの炎症や異常をきたした状態を指します。
労災認定の要件
腕や手を過度に使用する機会は、仕事だけではなく、家事、育児、スポーツなど、日常生活の中でもあり、上肢障害と同様の状態は「五十肩」のように、加齢によって生じるものもあります。
このため、業務の内容と業務以外の個体要因(年齢、素因など)や日常生活要因(家事、育児、スポーツなど)を検討した上で、上肢作業者が、業務により上肢を過度に使用した結果、発症したと考えられる場合(業務以外の個体要因や日常生活要因に比べて、業務が疾病を発症させた有力な原因と考えられる場合)に、業務に起因することが明らかな疾病として労災認定がされることになります。
なお、労災として認定されるには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
- 上肢等(※)に負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事した後に発症したものであること。
※後頭部、頸部、肩甲帯、上腕、前腕、手、指 - 発症前に過重な業務に就労したこと。
- 過重な業務への就労と発症までの経過が、医学上妥当なものと認められること。
上肢等に負担がかかる作業とは
①上肢の反復動作の多い作業
- パソコンなどでキーボード入力をする作業
- 運搬、積み込み、積み卸し、冷凍魚の切断や解体
- 製造業における機器などの組み立て、仕上げ作業、給食等の調理作業、手作り製パン、製菓作業、ミシン縫製、アイロンがけ、手話通訳
②上肢を上げた状態で行う作業
- 天井など上方を対象とする作業
- 流れ作業による塗装、溶接作業
③頸部、肩の動きが少なく姿勢が拘束される作業
- 顕微鏡やルーペを使った検査作業
④上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業
- 保育、看護、介護作業
※①~④に類似した作業も「上肢等に負担のかかる作業」に該当することがあります。
相当期間従事したとは
原則として6カ月程度以上従事した場合をいいます。
過重な業務に就労したとは
発症直前3ヵ月間に、上肢等に負担のかかる作業を、次のような状況で行った場合をいいます。
<業務業がほぼ一定の場合>
同種の労働者(※)よりも10%以上業務量が多い日が3ヵ月程度続いた場合
※同様の作業に従事する同性で年齢が同程度の労働者を指します。
<業務量にばらつきがある場合>
- 1日の業務量が通常より20%以上多い日が、1ヵ月に10日程度あり、それが3ヵ月程度続いた(1ヵ月間の業務量の総量が通常と同じでも良い)
- 1日の労働時間の3分の1程度の時間に行う業務量が通常より20%以上多い日が、1ヵ月に10日程度あり、それが3ヵ月程度続いた(1日の平均では通常と同じでも良い)
過重な業務に就労したか否かを判断するにあたっては、業務量だけではなく、以下の状況も考慮します。
- 長時間作業、連続作業
- 過度の緊張
- 他律的かつ過度な作業ペース
- 不適切な作業環境
- 過大な重量負荷、力の発揮
上肢障害の代表的な疾病
上肢障害の代表的な診断名には、以下があります。
- 上腕骨外(内)上顆炎
- 手関節炎
- 書痙
- 書痙様症状
- 肘部管症候群
- 腱炎
- 腱鞘炎
- 回外(内)筋症候群
- 手根管症候群
※上記以外にも、業務が有力な原因であることが明らかな疾病であれば対象となります。
上肢障害の労災認定事例
事務職員が腱鞘炎を発症
事務職員のAさんは入社後2年間、パソコンで顧客情報などを入力作業に従事していたが、肘から指先にかけて、しびれと痛みを感じ、医療機関を受診したところ「腱鞘炎」と診断された。
【判断】
発症直前の3ヵ月間、同じ作業を行う同僚の1時間の平均入力件数が約80件だったのに対し、Aさんの入力件数は1時間約100件だった。
Aさんの業務量は同種の労働者と比較して概ね10%以上多かったため、過重な業務に就労していたとして労災認定された。
作業療法士が上腕骨内上顆炎を発症
作業療法士のBさんは、患者のリハビリを補助する作業に5年間従事していたが、右腕に痛みを感じ、肘の屈伸などの運動が困難となったことから、医療機関を受診したところ、「上腕骨内上顆炎」と診断された。
【判断】
Bさんの同僚の作業療法士が急に退職し、それまでは1日平均約12人の患者を担当していたのが、発症直前の3ヵ月には1日約20人を担当する日が毎月10日以上あった。そのため、過重な業務に就労していたとして労災認定された。
エステ業務チーフスタッフが頚肩腕障害を発症
エステ教室でマッサージ等の業務に従事していたCさんは、首から肩にかけての強い痛みや手のしびれ、吐き気を訴えて受診したところ、「頚肩腕障害」と診断された。
【判断】
業務量の数値的な把握は困難ではあったものの、上肢負荷の状況や人員が手薄であったことも相まって、業務量以外の要因としての執務環境も室温が36度に設定されており、緊張感を要する相当過酷な状況であったことから、通常業務による負荷を超える一定の負荷(促進要因)があったものとして、過重な業務にあたるとされ、労災認定された。
ホームヘルパーが頚肩腕障害、腰痛症を発症
ホームヘルパーとして訪問介護業務に従事していたDさんは、首から肩にかけて、腰部も痛み出すようになり受診したところ、「頚肩腕障害、腰痛症」と診断された。
【判断】
月平均約45回の頻度で派遣されていたうち、約19回の頻度で身体介護を要する困難度の高い業務を分担しており、中腰の姿勢で利用者の身体を支え続けなければならなかったこと、重量物の上げ下ろしや移動の作業も少なくないこと、利用者の身体や居宅を傷つけないようにとの緊張や利用者等の要望に配慮が伴うこと、所定の休憩がとれないことも少なくなかったDさんの勤務状況から、訪問介護業務により身体に生じた疲労を回復することは困難であり、頚肩腕部や腰部に生じた疲労を蓄積させるものであったとして、労災認定された。
鋼材成形作業のタップ作業者が頚椎症性脊髄症を発症
鉄の棒の先に鉄の塊を付けた工具で、鋼造の際に、鋼材に当てて、その上からハンマーやプレス機で叩くことにより鋼材の外径を成形するために用いられるものをタップといい、このタップを手に持って行う鋼材成形作業をタップ作業といいます。
このタップ作業に従事していたEさんが背部痛、腰部痛で受診をしたところ、「頚椎症性脊髄症」と診断された。
【判断】
Dは約5年間、タップ作業だけではなく、タップ作業に準じて上肢に負荷のかかるヘラ作業にも従事しており、全鋼造時間の13.09%作業に従事していたため、上肢等に負担のかかる作業に相当期間従事し、相当高温な作業環境にあったこともあり、通常業務による負荷を超える負荷があったといえる。
また、タップ作業は、比較的短期間の腰痛要件の「概ね20キロ以上の重量物及び軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務」に該当し、タップの上に直接2.0トンのボードハンマーを落下させて、腰部を含む体全体に強い衝撃や粗大な振動を受けることを繰り返すものであるから、腰部に著しく粗大な振動を受ける作業を継続して行う業務に該当する。これらのことから業務起因性があるとされ、労災認定された。
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